近年、ファインバブル、マイクロバブル、ウルトラファインバブル、ナノバブルなどと呼ばれる微細気泡は、その特異な物理化学的性質により注目を集め、さまざまな分野で研究・利用が進められている。これに伴い、関連する基礎研究や応用技術の開発は急速に進展し、その成果は環境、医療、工業、さらには食品および農水産分野に至るまで幅広く蓄積されつつある。しかしながら、これまで刊行されてきたファインバブル関連の書籍は、化学工学や装置技術を中心とした内容が多く、食品および農水産分野への応用を体系的にまとめた書籍はほとんど見られなかった。
食品と泡は古くから関係が深く、製パンにおける気泡構造の形成、炭酸飲料の爽快感、アイスクリームの滑らかな食感など、泡は品質や嗜好性を左右する重要な要素として機能してきた。近年では、これら従来の気泡に加え、ファインバブルを食品分野へ積極的に活用しようとする試みが広がっている。さらに農水産分野においても、養液栽培や養殖といった水を主体とする生産システムにおいて、溶存酸素の供給効率の向上や生育促進、衛生管理の高度化を目的として導入が進んでいる。ファインバブルは気体の種類や生成条件によってその挙動や作用が異なるため、今後も食品および農水産分野での多様な利用方法の開発が期待される。
このような背景のもと、本書は、ファインバブルの基礎的な原理や特性を平易に解説するとともに、食品の洗浄・殺菌・調理・加工への応用事例、さらには農業・水産業における生産技術への展開まで、最新の研究動向を総合的に整理した。初めてこの分野に触れる学生にも理解しやすい構成としつつ、研究者や技術者にとっても有用な実践的知見を提供することを目指している。
本書が、研究者、技術者、学生のみならず、教育機関、行政、産業界など幅広い関係者に活用され、ファインバブルの理解と応用の深化を通じて、食品および農水産分野の持続的な発展に寄与することを心より期待する。
編 者 玉置雅彦、小林史幸
【目 次】序論 食品と泡1.はじめに2.固形食品の泡3.液体食品の泡4.エスプーマ調理5.ファインバブルの食品・農業分野での利用6.おわりに
第1部 ファインバブル入門第1章 ファインバブルの歴史・測定方法・国際標準化1.はじめに2.ファインバブルとは3.日本におけるファインバブル研究の歴史4.ファインバブルの測定方法5.ファインバブルとISO規格6.おわりに
第2章 ファインバブルの作り方のいろいろ1.はじめに2.加圧溶解型3.旋回液流型4.インラインで組み込みやすい発生装置4.1 エゼクター型4.2 ベンチュリー型4.3 微細孔型5.おわりに
第3章 ファインバブルの特性1.気体の溶解効果2.帯 電 性3.pH変化4.表面張力の低下5.ラジカルの発生6.おわりに
第2部 ファインバブルと食品の洗浄・殺菌第1章 オゾンファインバブルと野菜の洗浄・農薬除去1.はじめに1.1 農業と農薬1.2 オゾン(O3)の利用1.3 マイクロバブルとオゾンの組み合わせ2.オゾンマイクロバブルを用いた野菜の残留農薬除去2.1 農薬の処理方法2.2 オゾン処理方法2.3 オゾン処理した水中のオゾン濃度の経時的変化2.4 オゾン処理した野菜の残留農薬率の変化2.5 オゾンマイクロバブル処理に関する研究のまとめ2.6 本節のまとめと今後の展望3.オゾンマイクロバブルの発生方法の違いによる野菜の残留農薬除去3.1 農薬の処理方法3.2 オゾンマイクロバブル処理3.3 2 種類のオゾン発生方法による水中の溶存オゾン濃度の経時的変化3.4 2 種類の発生方法でオゾン処理した野菜の残留農薬率の変化3.5 2 種類の発生方法でオゾン処理した野菜の残留農薬除去効果のまとめ
第2章 CO2ファインバブルの食品・飲料の殺菌1.はじめに2.CO2ファインバブル装置2.1 CO2を使った殺菌技術2.2 CO2ファインバブル装置の仕組み3.食品別の殺菌効果3.1 微生物に対する効果3.2 ビールの殺菌への応用3.3 牛乳の殺菌への応用3.4 カット野菜(ネギ)への応用4. CO2ファインバブルの殺菌メカニズム4.1 pHによる影響だけではない4.2 生命活動に関わる膜損傷4.3 代謝異常と酸化ストレス4.4 作用の流れ5. おわりに
第3章 CO2ファインバブルの酵素失活1.食品における酵素失活の意義2.CO2ファインバブルによる酵素失活の特性3.日本酒における酵素失活への応用3.1 日本酒に残存する酵素3.2 CO2ファインバブルの導入4.CO2ファインバブルによる酵素失活のメカニズム4.1 SDS-PAGEによる変性の確認4.2 三次構造の変化4.3 推定される失活メカニズム5.まとめ
第3部 ファインバブルの食品・農水産分野への利用第1章 窒素ナノバブルの利用について1.はじめに2.窒素という気体3.酸素と窒素のトレードオフ4.私が感じるナノバブル技術のすごさ5.窒素ナノバブルの利用について5.1 農業における酸素ナノバブルと窒素ナノバブルの使い分けについて5.2 金属表面や配管など,酸化防止・腐食抑制効果について5.3 食品での窒素ナノバブル利用について6.おわりに
第2章 ナノバブルに香気成分を封入する試み1.はじめに2.香りについて想うこと2.1 研究者として(山﨑正幸)2.2 京料理人の一人として(才木 充)3.ナノバブルに香気成分を導入するための技術4.食品で特徴的な香気成分をナノバブルに導入する試み5.山椒の香気成分をナノバブルに導入する6.山椒からナノバブルに導入されやすい香気成分の特徴について
第3章 ファインバブルを使った加工食品・調理の質向上と可能性1.加工食品製造の場面でのファインバブル利用の可能性2.食品加工分野でのファインバブル利用の提案3.これまでの事例4.三重県工業研究所などでの検証事例4.1 アイスクリーム4.2 水中の植物性脂肪の分散挙動4.3 大豆飲料4.4 カンキツ果汁飲料など4.5 食用油脂5.調理への利用の可能性6.おわりに
第4章 養液栽培での殺菌1. はじめに―マイクロバブル(MB)とオゾン(O3)殺菌―1.1 養液栽培の普及と拡大1.2 従来の培養液の殺菌方法1.3 マイクロバブル(MB)の可能性2.オゾンマイクロバブル(O3MB)を用いたフザリウム属菌および軟腐病菌の殺菌2.1 病原菌懸濁液の調整2.2 溶存オゾン(dO3)濃度の測定2.3 初期溶存オゾン(dO3)濃度が異なるオゾンマイクロバブル(O3MB)水およびオゾンミリバブル(O3MMB)水の殺菌効果および殺菌効果持続性の検討2.4 生存菌数の測定2.5 異なる水温におけるオゾンマイクロバブル(O3MB)およびオゾンミリバブル(O3MMB)による水中の溶存オゾン(dO3)濃度の経時的変化2.6オゾンマイクロバブル(O3MB)オヨビオゾンミリバブル(O3MMB)ニヨル植物病原菌の殺菌効果3.オゾンマイクロバブルの発生方法の違いによる培養液中のフザリウム属菌および軟腐病菌の殺菌3.1 病原菌懸濁液の調整3.2 溶存オゾン(dO3)濃度の測定3.3 オゾンマイクロバブル(O3MB)およびオゾンミリバブル(O3MMB)の殺菌効果の検討3.4 加圧溶解法と旋回液流法により発生させたオゾンマイクロバブル(O3MB)およびオゾンミリバブル(O3MMB)の水中の溶存オゾン(dO3)濃度の経時的変化3.5 加圧溶解法と旋回液流法で発生させたオゾンマイクロバブル(O3MB)およびオゾンミリバブル(O3MMB)による植物病原菌の殺菌効果4.オゾンマイクロバブル(O3MB)で殺菌したフザリウム属菌胞子の形態的変化4.1 フザリウム属菌胞子懸濁液の調整4.2 オゾンマイクロバブル(O3MB)およびオゾンミリバブル(O3MMB)によるフザリウム属菌胞子の殺菌4.3 電子顕微鏡(SEM)観察4.4 オゾンマイクロバブル(O3MB)およびオゾンミリバブル(O3MMB)処理後のフザリウム属菌胞子の電子顕微鏡(SEM)観察4.5 オゾンマイクロバブル(O3MB)のフザリウム属菌胞子の殺菌メカニズム
第5章 農作物栽培における成長促進1.農作物における光合成と呼吸および夜間酸素供給の可能性1.1 昼間の光合成と呼吸1.2 夜間の呼吸1.3 夜間における農作物の酸素摂取と高濃度酸素水利用2.マイクロバブルを用いた高濃度酸素水作成2.1 酸素ガス使用量の大幅削減2.2 酸素濃縮器の利用によるコストの大幅削減3.高濃度酸素水の農作物栽培への利用3.1 葉菜類のDFT方式水耕栽培3.2 シクラメンの鉢植え土耕栽培の例4.高濃度酸素水の農作物栽培への展望5.まとめ
第6章 水産養殖への利用1.海面養殖業の現状と課題2.魚介類の養殖場におけるDOの変化2.1 マダイ養殖生け簀の例2.2 エビ養殖場の例3.水産養殖へのマイクロバブル発生装置の利用3.1 魚類養殖生け簀における利用と効果3.2 魚類養殖生け簀のDO環境改善による生産性・収益性の向上3.3 魚類養殖生け簀へのマイクロバブル発生装置の普及への展望3.4 エビ養殖池における利用と効果3.5 エビ養殖池のDO環境改善による生産性・収益性の向上4. まとめ