シミュレーショニズムとしてのイメクラ空間。
たったひとりのために演じられる妄想の舞台劇。新風営法施行で絶滅寸前の“イメクラ”は世界でいちばん小さな劇場だった。2003年に大阪で小部数発行された、幻の写真集の増補改訂復刻版。
【本文より】通常のハードコアな売春産業に見られる、つかのまの幻想としての性愛関係さえ存在しないし、求められることもない。客にとってイメクラ嬢とは、おのが脳内に展開するポルノグラフィ・ランドスケープの、一登場人物でしかないのだ。イメクラをアートとしてとらえる人間はいない。しかしそれが風俗雑居ビルの中にあるから誰も気にしないだけであって、もしそれがそのまま、洒落た現代美術館のフロアに再現されていたら、いったいどうなるだろう。それは素晴らしく難解なコンセプチュアル・アートに見えてしまうのではなかろうか。本来的な意味からして、イメクラとはシミュレーション・アートの極北なのだ。無名のアーティストと無名のコレクターと無名の観客が、評価されることも援助されることもないままに、それどころか法を犯し逮捕され閉店を余儀なくさせられる危険をつねに冒しながら、ストリートという名の壮大な美術館で展開しつづける、無意識の、だからこそ真に革新的なプロジェクトとしての。
※本書は2002~03年にかけて『月刊ゴン!』で連載されたのち、アムズ・アーツプレス社より単行本化されました『IMAGE CLUB』の増補改訂版です。本書に収録されている店舗の情報は2001~03年取材当時のものです。その後、休廃業になったり、営業形態を変更した店舗が含まれていることをご了承ください。
【著者】都筑響一編集者。1956年東京都出身。上智大学卒。学生時代から雑誌『ポパイ』『ブルータス』誌で活躍。89年から92年にかけ、全102巻の現代美術全集『アート・ランダム』(京都書院)を刊行。以来現代美術、建築、写真、デザインなどの分野での編集・執筆活動を続けている。主な著作に第23回木村伊兵衛賞を受賞した『ROADSIDE JAPAN珍日本紀行』など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)