いつもの散歩道で普段は気にもしていなかった猫じゃらしが目に止まり、 「デザインとして面白いかもな」と思ってじっと見つめていました。柳(やなぎ)が出てきたのは、デザインを考える同時期に「柳陰(やなぎかげ)」というお酒の存在を行きつけのバーのマスターに教えて頂いたところにもあります。江戸時代にみりんは甘味があるアルコールで、高級な飲み物として取引されていました。そこで、安い焼酎と混ぜて飲んだのが「柳陰」というお酒です。柳の部分はかなり深めのカットを意図して入れています。それにより、切子のエッジを指で感じ、圧倒的な手触りの良さを体感できる細工にしております。また、 飲み口は内側に少し傾斜するように半円状に擦っております。10パターンほど飲み口を擦って試しましたが、半円状にした時が最も口当たりが良くなると断定しました。最初にただのお水を飲んでほしいのですが、口当たりの良さでただのお水がいつもよりおいしく感じて頂けると思います。初期構想ではブドウ糖を含むみりんを絞って柳陰を抽出するイメージのデザインや、猫じゃらしの種をざるに取って脱穀して食用にするという部分をイメージしたデザインを考えておりました。しかし、雑多なデザインになると感じましたので、猫じゃらしと柳の美しさを魅せるために、交差した中心部をそれらの線と沿うようにカットし、消し加工(擦りガラス状)を施しました。これにより、デザインがスッキリまとまったのと、単純に磨いただけでは表現できない品の良さ、美しさをプラス出来たかなと感じます。上から覗き込んだ時に花のような、水の波紋のような、そんな美しさがあります。猫じゃらしと柳の間には伝統的な菊籠目(きくかごめ)というカットを施しました。カットの難易度は非常に高く、作業時間も多くかかりますが、カットして透明になる部分と色が残る部分のバランスが良いので、このデザインに積極的に採用しました。個人的にはなかなかの傑作で良い仕事をしたとかなり満足しています。職人の粋が詰まったこの作品をぜひお試し頂けたら嬉しく思います。自分用、贈り物、お店のブランドイメージアップなどにご検討頂ければ幸いです。