プロになってから両親に切子をプレゼントしたことがなく、6月20日が父の日ということもあったので両親にプレゼントするためにデザインに取り掛かりました。
for parents(両親のために)という仮の作品名にしながらデザインを考え始めました。
私が26歳の時に四国の88か所のお寺を廻るというお遍路に行きました。
37番寺の岩本寺の本堂の天井がマス目ごとに様々なバラエティに富んだ公募の絵がはめ込まれていました。
それをデザインの根底にしたいと考えました。
お寺と言っても仏様のような特定の絵の指定は無く、配置もランダム。
私のデザインは盛り込みすぎて、修業時代に先輩に引き算の美学があることをよく教えられました。
しかし、お寺の天井のように関係性のないものが配置がランダムで盛り込まれているのが綺麗に見えます。
つまり、当時の私がデザインの盛り込み方が中途半端で良く見えていなかったのでは?という発想に至りました。
マスの中に入れるデザインは9個あり、江戸切子の伝統的な文様と江戸切子でよく見るデザインを選出しました。
江戸切子は法則に従って綺麗に整ったデザインが特長でもあると思います。
しかし、お寺の天井をリスペクトするならば、配置は完全にランダムです。
そこで両方の特性を取り入れることを決めました。
デザインの配列は1~9まで順番が決まっています。
1~9の文様は色残りが多い文様と色残りが少ない文様が交互に来るように配置して見栄えが良くなるように配慮しております。
配列は1~9までですが、上半分と下半分で配列1~9の置き方が5マス分ずれています。
江戸切子的に言えば、4等分になる位置に同じデザインが来るようにするなどの整合性を取る場合が多いです。
しかし、全体は18等分されている中で5マスずらしています。
そこに法則性は感じられず、ランダム性を感じることができます。
5の倍数で進むので、本当は全体を20等分にすると4等分に割り切れて、江戸切子的な美しさになります。
しかし、このランダム性が見ていて非常に心地が良く法則性を崩して配置したのは大正解でした。
またこのマス目の1つ1つは過去の記憶であるというストーリーが浮かびました。
多くの年齢を重ねた人は、マスにたくさんの文様が入っており、その過去の記憶を振り返るととても美しい風景です。
そういう年齢を重ねた人に向けてのメッセージ性のあるデザインです。
1~9の文様の設定の中で、1つはまだ何の文様も入っていません。
それはこれからの残りの人生できっと見つける文様になるのでしょう。
仮の名前、for parents(両親のために)から、今の名前となる「回想ロックグラス」と名付けました。
実家に持っていき、両親にプレゼントしました。
父親は少し泣いていたように見えました。
元々は両親のための特別でオリジナルなデザインとして開発した経緯もあり、カット数が見てわかる通り、尋常じゃなく多いです。
正直、現在の値段の29,700円(税込)では採算は全く取れていません。
しかし、これ以上上げてもユーザーのためにならないと思ったので、この値段設定にしました。
自分用、贈り物、お店のブランドイメージアップなどにご検討頂ければ幸いです。
他の製品とも比較して自分の好みの製品を選んでみて下さい。