複雑に人生が交差する新宿の夜をたくましく生き抜くSMの女王様、柊一華。写真家でもある彼女による新宿ガールズ・コレクション。
禁猟区の時間(都築響一による「まえがき」より)この写真。最初に見たときはフォトショップかイラストレーターでいくつもレイヤーを重ねながら仕上げた複雑な構成の作品だと思ったら、実はトイカメラのHOLGAでフィルムの巻き上げがうまくいかなくて(トイだから)二重露光になってしまったという……はからずもこうなっただけの写真なのだった。こういうウッチャリをかましてくれるのが、アマチュア写真の醍醐味でもある、と僕は思う。神田馬喰町にKKAGという写真ギャラリーがあり、そこで年に1、2度「都築響一の眼」という展覧会をやらせてもらっている。ふつうのギャラリーや写真美術館ではなかなか取り上げられない写真家の作品を見てもらいたくて始めた連続企画で、今年(2022年)6月に「柊一華写真展禁猟区」と題した個展をキュレーションさせてもらった。そのとき書いた紹介文はこんなものだった―。一華さんと会うたびに、東京の夜の匂いってこういうのかと思う。ホステス、風俗カメラマン、ギャラリーバー勤務、ミストレス、緊縛師、SMクラブオーナーまで、いろんな顔をして東京の夜の海を泳ぎながら、たくさんの出会いをカメラですくいとってきた。本格的に写真制作を始めたのは2013年から。でも昆虫採集家の父に、小さいころに一眼レフを持たされたのが写真と付き合う始まりだったという。「夜咲くネオンは嘘の花」と唱ったのは藤圭子だったけれど、お父さんは花に寄り添う蝶々を撮っていたのに、娘は夜咲くネオンの花園に舞う蝶々を撮るようになったのだった。一華さんの蝶々たちが好きなのは、男にはけっして見せてくれない、ふっと息を抜いた隙だったり、熱唱のあいまのわずかな息継ぎだったり、そういう瞬間を見せてくれるからだ。完璧な化粧の奥にほろりと透けて見える素顔のいとしさ。一華さんはカメラという小さな機械を使って、蝶々たちと情を交わしているのだろう。(後略)
著者プロフィール柊一華埼玉県出身。SMの女王。写真家。2007年、父の死をきっかけに本格的に写真を撮り始める。2008年、女王様としての活動をスタート。月蝕歌劇団の舞台『団鬼六・悦楽王』、『家畜人ヤプー』、『黒蜥蜴』や映画『R100』(松本人志監督)、『エイプリルフールズ』(石川淳一監督)など多数の舞台、映画、テレビに出演。2013年、女王様専科SM Club「Myrrh」のオーナーに就任。ホステス・キャバクラ嬢・出会い系サイト・風俗嬢カメラマン・ゴールデン街ギャラリーバー・女王様・SMクラブオーナーなどの職歴や、波乱万丈の一言では言い表せないほどの人生の苦難を糧に、写真作家活動をしている。