書評掲載情報2018-12-01朝日新聞 朝刊評者: 寺尾紗穂(音楽家、エッセイスト)2018-10-20日本経済新聞 朝刊紹介並木路子が歌う「リンゴの唄」は、敗戦の年に映画やラジオ、レコードを通じて爆発的に流行した。「敗戦後の人々を勇気づけた」とされるこの曲がどのようにして誕生し、人々はどこで聴き、日記にどう書き、どうやって歌ったのか――。「歌と時代」を描き出す。
目次凡例
はじめに
第1章 戦後初の音楽映画『そよかぜ』と並木路子1 八月十五日と文化的真空状態2 「戦争の歌」の呪縛3 「歌を忘れたカナリヤ」4 日本芸能社による「新流行歌の大衆審査」5 「ムシズ」が走る映画『そよかぜ』6 『そよかぜ』のストーリー7 戦争映画と敵性音楽の呪縛8 「リンゴの唄」は挿入歌?9 映画『そよかぜ』は一カ月で撮影された10 並木路子「リンゴ娘」に抜擢
第2章 「リンゴの唄」の誕生と反響1 「リンゴの唄」の曲は汽車のなかで書かれた2 歌詞を書いたのは戦時中?3 東京での封切り興行は二週間だけ4 地方での上映はさらに少ない5 とりえは「リンゴの唄」のリズムだけ6 高見順も「全くひどいもの」7 『そよかぜ』は本当にGHQの検閲第一号か8 音楽映画が相次ぐ
第3章 「リンゴの唄」、ラジオで人気沸騰する1 新聞のラジオ欄と並木路子2 並木路子のラジオ出演履歴3 並木路子の回想4 『砕かれた神』の衝撃5 『洋楽放送記録』と『放送番組確定表』という資料6 「リンゴの唄」の放送形態の多様性7 ほかの歌手も「リンゴの唄」を歌う8 並木路子のラジオデビュー9 『映画スターの午後』の解説者として10 歌手としての並木のラジオデビュー11 初めてラジオで「リンゴの唄」を歌う12 『希望音楽会』に「リンゴの唄」の希望殺到13 『希望音楽会』への出演14 『紅白音楽試合』で「リンゴの唄」を歌う15 古川ロッパの日記16 終戦の年の「歌いくらべ」
第4章 レコードによる流行の本格化1 終戦後のレコード界の苦境2 「リンゴの唄」はB面?3 レコードも圧倒的売れ行き4 レコードによる流行の増幅作用5 一九四六年の「リンゴの唄」放送6 ラジオの「ながら聴取」による流行拡大7 実演でリンゴ投げのパフォーマンス8 並木路子というスターの誕生
第5章 「リンゴの唄」を歌う国民1 駅や学校で歌う2 終戦後のラジオの新番組3 『のど自慢』で最も多く歌われる4 進駐軍と「アップルソング」5 復員船で看護婦たちが合唱する6 捕虜収容キャンプで兵士たちが大合唱する7 引き揚げ船で船員たちが歌う8 終戦と帰国をことほぐ歌9 引き揚げ歌の伝統と「赤化」
参考文献
付録1 『そよかぜ』概要と挿入歌付録2 『洋楽放送記録』『放送番組確定表』補遺
あとがき
版元から一言並木路子が歌う「リンゴの唄」は敗戦後の日本の心象風景を象徴する歌として「敗戦後の人々を勇気づけた歌」「焼け跡のBGM」として扱われている。
しかし、この曲の作詞・作曲の成立過程、映画やラジオ、レコードを通じて爆発的に流行した社会的な背景、人々がどんな思いで歌ったのか、などの実態については不明のままだ。
作家や文化人は「リンゴの唄」をどこで聞いたのか、引き揚げ船ではどうやって歌っていたのか、無名の人々の日記にはどう書かれていたのか――NHKの番組履歴も詳細に検証して、「歌と時代」を描き出す。
著者プロフィール永嶺 重敏 (ナガミネ シゲトシ) (著)1955年、鹿児島県生まれ。九州大学文学部卒業、出版文化・大衆文化研究者。日本出版学会、日本マス・コミュニケーション学会、メディア史研究会、日本ポピュラー音楽学会会員。著書に『オッペケペー節と明治』(文藝春秋)、『流行歌の誕生――「カチューシャの唄」とその時代』(吉川弘文館)、『東大生はどんな本を読んできたか――本郷・駒場の読書生活130年』(平凡社)、『怪盗ジゴマと活動写真の時代』(新潮社、内川芳美記念マス・コミュニケーション学会賞)など。