2021.07.01
裏面までかっこいい器をつくる陶芸家・園田さん
今回お話を伺う人
生楽陶苑
園田 空也さん
趣味:音楽 (時間のあるときはコントラバスを弾く)
お客様が思わず「裏面がかっこいい」と口にするほどの器をつくる陶芸家・園田さん。なんと、元々は都内ベンチャー企業のデザイナー。今回はそんな意外なストーリーをお持ちの園田さんに、お話を伺いました。
デザイナーから陶芸家へ
- 園田さんは、昔から陶芸家になると決められていたのですか?
- 片岡さん 実は、そうではないんです。もともと両親が陶芸家だったこともあり、幼いころから粘土に触れる機会は多かったのですが、物心ついてからはスポーツや音楽に興味があり、陶芸に触れることはほとんどなかったんです。
- そうなんですね。では、陶芸に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?
- 片岡さん 東京のベンチャー企業でデザインの仕事をしていた27歳の頃、近所にあった陶芸教室が気になって入ってみたのがきっかけです。 先生に粘土を渡されて「好きなものを作っていいよ」と言われたときのことをよく覚えています。一日中パソコンに向かう毎日の中では得られなかった感触や思考がとても新鮮で、一からものをつくるということの楽しさを改めて実感しました。 また、幼いころに粘土を触っていたからでしょうか、自分で言うのもなんですが上達がかなり早く、先生には両親が陶芸家ということは言ってなかったので、上達の速さに驚かれました(笑) 自分でも、今まで経験してきたことの中で一番向いているという実感もありましたし、これなら仕事にしてもやっていけるという根拠のない自信が湧いてきたんです。
- もとから決まっていたかのように引き寄せられていったのですね。とはいえデザイナーから陶芸家への転身はとても思い切った決断だと思いますが、迷いやためらうものはありましたか?
- 片岡さん 楽しみな気持ちというか、そういった気持ちの方が大きかったのと、デザイナーとして積んだ経験も活かせるという風に思ったのでためらいはありませんでした。
都内でデザイナーとして勤務されていた園田さん。
陶芸家としての今のイメージと、雰囲気が違うように感じます!
陶芸家としての今のイメージと、雰囲気が違うように感じます!
イギリスでの出会いによって確立された自分のスタイル
- 陶芸家に転身してから、大変だなと感じたことはありましたか?
- 片岡さん 粘土をこねるところから窯で焼いて作品を販売するところまでをすべて担うので、どこかひとつでも手を抜いてしまうと当然うまく焼き上がりませんし、責任が全て自分にあるため、少しも手を抜くことが許されないというところは大変です。
- 最初から最後まで全力を尽くさなければ出来上がらないものなのですね。 陶芸家としてのやりがいを感じるのは、どんなときでしょう?
- 片岡さん お客様と接する中で、器を使っていただく方の喜びなどを直接聞く機会も多く、とてもやりがいと喜びを感じます。
園田さんが陶芸家に転身されて初めて作られたソープディッシュ。
日常的に使用いただけるものを作りたいという想いをもとに完成されたもの。
作風が異なるので現在は販売されていない、貴重なお写真です。
日常的に使用いただけるものを作りたいという想いをもとに完成されたもの。
作風が異なるので現在は販売されていない、貴重なお写真です。
- 現在園田さんの代表作となっている“スリップウェア”には、どのように辿り着いたのですか?
- 片岡さん まず、陶芸を始めてからは、自分のスタイルを確立したいという思いで、色んな技法を試しました。特に海外の陶器に興味を持ち、華やかな色や柄のある陶器に魅かれ、何か自分もそのような陶器が作れないかと思っていました。 そして、ヨーロッパに行く機会がありポーランドやルーマニアなどの陶磁器の産地をめぐっていたところ、イギリスのスリップウェアに出会いました。 温かみがあり和洋を問わない雰囲気に魅かれ、地元の原料で試作してみたところ、自分なりにこれだ!というものが出来たので、スリップウェアを深めていくことにしました。
“スリップウェア”とは、化粧土(スリップ)で装飾して焼き上げた陶器のこと。
柄によって大きくイメージが変わるので、テーブルの上が一気ににぎやかな印象に!
柄によって大きくイメージが変わるので、テーブルの上が一気ににぎやかな印象に!
器に対してできることはすべてしたい。「裏面」にまで及ぶ想い
- 作品を制作する上で工夫されていることはありますか?
- 片岡さん 角を落として丸くすることで欠けにくいようにする、底面までしっかり磨いて凹凸を無くすことでテーブルを傷つけてしまわないようにするなど、長く愛用いただくための工夫を凝らしています。 また、素敵な器でもあまりに高価だと、飾っているだけであまり使わなくなってしまうと思いますので、気兼ねなく日常的に使っていただけるよう価格はできる限り抑えています。
角の丸いお皿は、欠けにくい上に見た目も愛らしい。
重ねた状態でも一枚一枚のふちを捉えやすく、サッと取り出せるのも嬉しいポイント。
重ねた状態でも一枚一枚のふちを捉えやすく、サッと取り出せるのも嬉しいポイント。
- なるほど。一点物だからこそ大切にするあまり、特別な日に使おうとしまっておいて結局使わない…ということがよくあるので、日常的に使いやすいような工夫がされていると嬉しいですね。
- 片岡さん 器を作る以上は、やはり使ってもらわないと意味が無いと思っています。 安心してお使いいただけるよう原料にもこだわっていて、鉛やカドミウムなどの健康に影響のある原料は使用せず、裏山から取れる白砂(シラス)やワラ灰や木灰などの地元のものを主原料にした自然の釉薬を使用しています。
- 原料からお客様の食卓に並ぶまで、細やかな部分に心を配ってみえるのですね。
- 片岡さん そうですね。器を焼く窯も、自分たちの手でレンガを積み立てて作ったオリジナルの窯とその他の様々な種類の計7種類を作品によって使い分けています。
- そんな大切に育てられた作品の中でも、特に見て欲しい部分はありますか?
- 片岡さん 表の柄の部分はもちろんなのですが、ぜひ「裏面」にも注目して欲しいです。器を手に取ったときに、やはり全面に愛着を持ってほしいというか、作家として器に対してできることをすべてしたいと思って、手をかけています。
裏面までかっこいい器は、料理をのせて食卓に並んでいる姿はもちろん 洗った後、ひっくり返して乾かしている間ですらも愛着が湧いてきそうです。
- 確かに、なめらかでスムーズな質感に対して焼き色が生み出す一点一点異なる表情が相まって、とてもかっこいいです。一体どう仕上げられているのですか?
- 片岡さん 自分の器の作り方はタタラ作りとよばれるもので、まず粘土を板状にして、その厚みを活かして成型していくやり方です。 なので、一般的な器より底が平らでテーブルの接地面が多くなります。 焼き上がりはザラザラしているのですが、サンドペーパーで磨くことでつるんとした肌触りの良い質感に仕上げています。 また、焼成前に筆で茶色い色を付けているので、それが土の質感にプラスして味になっていると思います。
何にでも使いやすい、手のひらにしっくりくる“小判皿”
- 大切な作品の中でも、特に人気のものは何ですか?
- 片岡さん 小判皿です。もともと両親が定番で作っていた形で、実家の食卓に並ぶ機会も大変多い器でした。それをスリップウェアの技法で制作したところ、やはりとても人気が出ました。 両手にすっぽり収まるサイズで、ちょっとした取り皿でもいいですし、お惣菜やフルーツなど、何でも大変使いやすい器だと思います。
おかずもデザートも「これがあれば大丈夫」と頼りになるサイズ。
スリップウェア特有の風合いやあたたかみのある文様が、シンプルな料理も華やかにみせてくれます。
スリップウェア特有の風合いやあたたかみのある文様が、シンプルな料理も華やかにみせてくれます。
- ご両親が創られた定番の形に園田さんのスタイルであるスリップウェアを掛け合わせられた作品なのですね。このような創作のアイデアを出すために、普段意識していることはありますか?
- 片岡さん 100円ショップの器から作家物の高級品まで、種類関係なくあらゆる器に触れるようにしています。 プラスチックの器なども機能性などで参考になることもあります。 デザインに関してはいろんなアート作品に触れたり、自然の中にある植物などの形から着想を得ることもあります。 そういった日ごろのインプットが蓄積されて、ふと何かを作ってみようを思いつくことが多いです。
陶芸家の両親から受け継いだ想い
- 使い手の気づかないようなところまで丹精を込めて作品を作られている園田さんですが、何がエネルギーになっているのでしょうか?
- 片岡さん 仕事場から陶芸の技術まで、様々なものをくれた家族の存在でしょうか。 初代である両親が“生楽陶苑”という名に込めた“「生まれることの楽しさ」を通して使う喜びを感じていただきたい“という想いを、しっかり継いでいきたいと思ってやっています。
開窯当時(1976年)の園田さんのご両親。
制作の幅が広がり、新窯を作りたいという思いで現在の工房に移ったそう。
制作の幅が広がり、新窯を作りたいという思いで現在の工房に移ったそう。
- 今後の展望を教えてください。
- 片岡さん お客様に、より気軽に実店舗へ足を運んでいただけるよう、店内を改装したり陶芸体験ができる環境を充実させて、陶芸の魅力や楽しさを伝えていきたいです。 また、オンラインショップもさらに充実させて、オンライン上で季節ごとのイベントなどを開催できればと考えています。
宮崎県三股町長田にある、現在の生楽陶苑。
すぐそばに小川が流れ、緑があふれる豊かな自然に囲まれています。
すぐそばに小川が流れ、緑があふれる豊かな自然に囲まれています。
- 陶芸体験や、オンラインショップでのイベント開催、今後も楽しみですね。 いろいろとお話をお伺いさせていただきありがとうございました!
- 片岡さん ありがとうございました。
取材を終えて
終始温厚で丁寧にお話ししてくださった園田さん。 「器にできることはすべてしたい」という陶芸への丁寧な気持ちが 作品の隅々までいきわたっているようでした。
「生楽陶苑」公式ショップサイトは、デザイナー時代のご経験を活かして園田さんご自身が作成されたもの。今回ご紹介した作品の他にも、虹色に輝く美しい器や40年作り続けられている猫モチーフの食器など、たくさんの作品をご覧いただけます。ぜひ一度覗いてみてくださいね。
今回紹介したショップ