ブルゴーニュ型のワイングラスの第五弾ということで製作に取り組みました。
よくわからない方は前のページの「ワイングラス一覧」にワイングラスの型の説明をしておりますので、ご確認下さい。
第四弾で製作した縁(ゆかり)ワイングラスの初期構想として「流れ星をテーマに作りたいが、初心者っぽくなるのでやめよう」というところがありました。
しかし、やっぱり星をテーマにした作品を作りたいと思い、第五弾は星をテーマにしようと思いました。
いかに初心者っぽいデザインの感じを無くして作品に落とし込めるか?というところがデザイン力の勝負どころでもあります。
まずはイメージ図を書くことにしました。
私はどういう時に夜空を見上げると気分が良いかを考えてその情景を詳しく考えてみることにしました。
最近仕事ばかりでずっと家にいたので、桜の時期もあって、大きな公園にある桜の木の下で草の上に寝そべりながら2時間くらい空を眺めていた自分を思い出しました。
この写真の状態でずっとぼんやり散りゆく桜と空を2時間眺めていました。
この出来事も相まって「少し何かが空に対して制限をかけている状態の方がきれいに見えるのではないか」と思い、以下の作品のイメージ図を書いてみました。
森の中で木々の間から見える夜空という情景が思い浮かびました。
全体を木で2分割し、1面側は星と月、2面側は帯状になっている天の川と月を表現しようと思いました。
ちなみに天の川は私たち地球が属している太陽系を含む天の川銀河の中心方向を見た時の星の集合体です。
太陽系は太陽の引力を中心とした水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星のことです。
上の丸を太陽系とした時に、太陽系全体も天の川銀河の渦の中で回転しているのですが、その天の川銀河の中心部を見たものが天の川です。
銀河は円盤状に細長いので、真横から見ると帯状に見えます。
まずは透明なグラスで試作を作ったのですが、木の葉っぱを表現しようとしたところが汚くなったのと、天の川を帯状に枠組みをカットしたのですが、そのカットが強すぎたので削除しました。
天の川は通常、夜空にぼんやり見えるものなので、強い主張のカットはいらないなという判断です。
それで完成したのがこちらです。
全体が写真では入りきらないので動画も見てもらえるとありがたいです。
まず葉っぱと枝の部分を輪切りに変更して全体を引き締めると共に、切子らしさを出すように調整しました。
次にイメージ図の1面側です。
星の数が少なく、採光が弱いと思いましたので星の数を4つ増やして7個にしました。
星の数を増やす意味を持たせられる北斗七星の配置にしました。
北斗七星がある夜空ということは季節は春から夏頃の夜空のイメージになります。
イメージ図の第2面です。
天の川銀河に見立てた菊繋ぎを斜めに帯状に配置しました。
試作では帯の外枠をカットしていたのですが、主張が強すぎたので上のような形になりました。
境界が少しあいまいでぼんやりした感じが夜空の天の川を見ているようで、外枠を削除したのは正解でした。
木は十草という伝統的な文様を少し変えて、下のカットの部分を末広がりにして木の根が地面に広がる様子にしてみました。
通常、グラスの側面が平らな場合は縦線を曲げることが出来ません。
しかしワイングラスの側面が曲面になっているので、大きく外側に線を曲げることができ、ワイングラスの形状の特性を生かしたカットになっています。
また草の部分は少し線に丸みをもたせて、先端が細くなるように調整することで植物感が出るように調整しました。
月はもう少し大きく擦ろうかと思いましたが、リアルさを重視して気持ち控えめに夜空に浮いている感じを出そうと思い、このサイズ感になりました。
縦横斜めに削る星だけをグラス全体にちりばめた初心者作品というのをよく見てきましたので、初心者が作れるデザインではないというところをうまく表現しつつ、星というテーマでうまく作品に出来たと思います。
私は基本は文様が複雑に組み合わさって出来たデザインを主軸に製作しております。
このように、あるテーマを題材にした作品というのはほとんど作りませんが、デザインのバリュエーションを増やした方がお客様の好みが見つかると思い、製作しました。
夏の夜に木の下の草の上に座って夜空を見上げる。
そんなさわやかで、大人になった私たちが忘れていた子供時代の夏を思い出してもらえればと思います。