Beタンブラーなどグレードの高い製品デザインを考えてラインアップの充実を図ってきました。しかし、そのどれもがオリジナリティ寄りのデザインであることに気付きました。そこで、オリジナリティを抑えて伝統的なデザインでありながら、よりグレードの高い作品を作ろうと考えたのがこのデザインです。この平透かし菊繋ぎタンブラーが概ねベースになっており、このタンブラーを更にグレードを上げるとどうなるかというところでデザインを考えました。平透かし菊繋ぎタンブラーのデザインの意図するところは「下部がクリアに透けていて、飲料の色を十分に楽しむことができる」というデザインです。それを踏襲しつつ,グレードを上げました。・菊繋ぎだけでなく、更に難易度の高い菊籠目を追加した。・太い線などの枠組みで分断するのではなく、菊繋ぎと菊籠目を同じ線の延長上でカットした。・菊繋ぎの1個当たりのサイズを小さくし、より細かいデザインにした。・口元を傾斜をつけて擦り、口当たりを良くした。・側面にざっくりカットを入れて、切子特有のエッジの手触りの良さを追加した。・側面の大きな平は当工房の割と特殊な機材でカットしているので、他の職人さんでは多分表現できない。・底全体の色を抜くことで、クリアの抜けを良くして綺麗に見えるようにした。菊繋ぎのサイズを小さくすると、より美しく見えますが、作業工数が著しく伸びるので、ユーザーに提供できる値段のことも考えると小さいサイズを削ることはほとんどしませんでした。しかし、今回伝統的なデザインのまま、グレードを上げるという命題により、時間はかかってもサイズの小さい菊繋ぎを削ることにしたという経緯です。菊籠目が上で、菊繋ぎが下に配置されているのも意味があります。何度も削るうちに菊籠目と菊繋ぎで綺麗に見えるサイズが違うというところに私は行き着きました。このタンブラーは口元側に天開しており、上の方が円周も長く、このデザインの場合、菊籠目のサイズと菊繋ぎのサイズが2mmも変わってきます。菊籠目はサイズが小さすぎると真ん中の色の残りが潰れて綺麗に見えなくなってしまうため、小さければ小さいほど美しく見えるというわけではありません。そういう論理があって、菊籠目が上になっており、下が菊繋ぎになっております。また、菊繋ぎの方が色が抜けるので、飲料を入れた際に下から上がっていきますので、色を見るのにも適しているというところで考えております。底の色を抜くのは現代では、ほとんどの工房がやっておりません。正直、私以外にやっている職人は見たことがありません。底の色を抜くとクリアの抜けが良くなり、とても美しく見えます。元々は江戸切子と言えば、底の色を全て抜くのが主流だったそうですが、今では作業工数がかかるなどの理由からか他にやっている職人さんを見たことがありません。口元は10パターンくらい削って、半円状に擦るのが一番口当たりが良いと断定しましたので、その形状を採用しております。構造的にはグラスの真ん中らへんを帯状に削るというベーシックなデザインです。しかし、細部や使い心地なども考慮してこだわることで、他の職人さんがやらないことや多分できないことがそのままデザインの差別化になっていると感じます。職人の知恵と技術が詰まっているグレードを上げた伝統的なデザインです。自分用、贈り物、お店のブランドイメージアップなどにご検討頂ければ幸いです。