デザインを考える時は、論理的数学的、あるいは直感的感覚的であるかを考えてデザインに取り掛かります。論理的デザインを作ると決めたデザインは全てが論理的になり、直感的デザインを作ると決めたら全てが直感的な構造になっていたように感じたので、両方を取り入れて融合させたようなデザインを作ろうと思ったのがこの作品です。全体的には曲線を用いた直感的、感覚的な構造に基づいておりますが、谷間に差し込んでいる伝統的な文様の菊籠目と矢来は縦横のマス目に基づいて数学的に座標の交点をきっちりカットしていく論理的数学的な構造となっています。矢来には玉(ぎょく)を差し込んで、通常の矢来にデザイン性を追加しております。当工房オリジナルの玉矢来(ぎょくやらい)というデザインです。玉(ぎょく)部分は、消し加工により擦りガラス状に仕上げております。消し加工をワンポイント入れると、グラスに高級感がプラスされるので採用しております。玉(ぎょく)には「とても大切なもの」という意味がございます。玉座(ぎょくざ)、玉露(ぎょくろ)、玉将(ぎょくしょう)などとても大切なものという意味です。高貴、高級感の演出と「とても大切な物」というミーニングが合致しているものです。菊籠目(きくかごめ)は伝統的な文様の中でもカット難易度がトップクラスに難しいものです。カット部分と色残りの塩梅が良く、美しく見えるのでデザインに採用しております。試作した結果、菊籠目のサイズ感も大きすぎず、小さすぎず、一番良いところだと思ったサイズにて調整しております。玉矢来は中心が色が抜けており、菊籠目は中心の色が残っております。対となるデザインということでグラスのデザインの統一感を演出しております。グレードを上げたデザインを作るというところで、口当たりの良さや手触りの良さを意識してデザインしております。手触りの工夫として、底の角の部分の形状を変えてしまうほどの「隅切り」という技法によって、大胆にグラスの角を削っております。また、2種類の隅切りのパターンにより、他の作品には無い手触りが産み出せたと思います。手触りに加えて底の形状も他の作品では見られないような面白い形状です。手触りという機能を求めた結果の「機能美」となっております。グラスの角だけでなく、側面にも意図的にざっくりと深めのカットを入れております。切子ならではの手触りの良さを感じて頂ける細工になっているかと思います。口元部分にも細工があります。口元側に傾斜をつけて擦ることで口当たりがとてもよくなります。この口当たりの良さは流行りの薄張り(うすはり)のグラスの口当たりとはまた別の種類の口当たりの良さがあります。最初に使用される時にお水を飲んでほしいのですが、口当たりの良さによってお水がすごく美味しく感じるかと思います。人間が口当たりが良いと感じる時の要件を自分なりに洗い出して考察しました。その要件を3つほど満たして形になっており、きっとご満足頂ける細工になっていると思います。またこれも機能を追求した結果のデザイン、機能美に当たるものです。最後にこのグラスの特長をまとめますと、・全体構造的には直感的なデザイン・細部は論理的なデザイン・口当たりが良い・角の手触りが良い・側面の手触りが良い・高難易度の菊籠目をカットしている・消し加工による高級感というところになるかと思います。職人の工夫と粋が詰まったこの作品をぜひ楽しんで頂ければと思います。自分用、贈り物、インスタ映え、お店のブランドイメージアップにご検討ください。