本書は,中小食品製造業の経営者・食品安全関係者に必要な,食品安全マネジメントの知識を解説することを目的としています. 本書の前身は2017 年4 月,HACCP 義務化を含む食品衛生法改正公布の1 年前に発行された「一般衛生管理による食品安全マネジメント」です.HACCP 義務化の前に理解しておくべき「食品安全マネジメントの基本」と「一般衛生管理」を中心に詳説し,中小企業に向けた食品安全の入門書としてご好評をいただきました.本書はその後継本です.
15 年ぶりの大改正だった改正食品衛生法は2018 年6 月に公布されました.営業許可制度の見直し,食中毒の広域連携,食品用器具容器包装のポジティブリスト化など多方面の改正が行われましたが,食品衛生関係では,HACCP の義務化が目玉でした.併せて,一般衛生管理が食品衛生法施行規則に載ることで,国の法律に格上げ(従来は都道府県条例)されたことも大きな変化でした.この改正により,食品衛生の法制度は国際標準と同等になり,食品事業者が実施すべき衛生管理がしっかりと制度化されました.
一方で,食の安全要求はますます厳しくなっており,中小企業もしっかりした対応が更に求められています.改正食品衛生法や,新たな認証のJFS など新しい制度が出てくる中で,依然として中小企業はどこから手を付けてよいのかわかりづらい状況が続いています.日本に食品製造メーカーは約33,000 社あると言われていますが,そのうち中小企業が98.8%を占めています.中小企業の食品安全レベルが上がることが,日本の食品業界の発展には不可欠といえます.したがって「中小食品製造業の経営者・食品安全関係者に向けてどのような食品安全施策をとるべきかの指針を示す」という初版の目的はますます重要になってきています.そこで本書では食品衛生法改正と最新の環境変化に対応して,内容を大幅に改訂しました.
日本の食文化を支えている,すべての中小食品製造業が正しい食品安全経営を行い,安全でおいしい商品を供給しながら事業基盤を強靭なものにしていき,その結果として「日本の食品は品質も素晴らしく世界一安全」ということを世界中の人が認める日が来ることを願っています.目次
第Ⅰ 部 中小企業のための食品安全マネジメント
第1 章 中小企業の食品安全経営
1.1 食品安全経営とは
1.1.1 経営とリスクマネジメント
1.1.2 食品安全経営で取組むこと
1.1.3 自社の「食品安全経営レベル」をチェックしてみよう
1.2 リスクマネジメント
1.2.1 社会の意識変化とリスクマネジメント
1.2.2 リスクマネジメントの基礎
1.2.3 外部リスクの把握
1.2.4 内部リスクの把握
1.2.5 リスクの分析・評価
1.3 食品安全組織の運営
1.3.1 トップマネジメント
1.3.2 社内組織風土の醸成
1.3.3 組織体制と品質保証組織の役割
1.3.4 食品安全経営の遂行 第2 章 食品安全施策の理解
2.1 食品安全施策の全体像
2.2 手法の理解
2.2.1 規格基準
2.2.2 一般衛生管理
2.2.3 手法としてのHACCP
2.2.4 マネジメントシステム
2.3 制度の理解
2.3.1 食品の法令
2.3.2 食品衛生法と,制度としてのHACCP
2.3.3 認証
2.4 中小企業が取組むべき食品安全システム
2.4.1 食品安全コスト
2.4.2 食品安全システムの選択
第Ⅱ部 一般衛生管理の実務
第3 章 生産を支える施設・ユーティリティ・資源のリスクと管理
3.1 食品衛生法の改正
3.2 一般衛生管理について
3.2.1 一般的な衛生管理に関する基準
3.3 工場敷地・施設のリスクと管理
3.3.1 敷地・施設管理
3.3.2 倉庫管理
3.3.3 生産棟の維持・管理
3.3.4 トイレ・更衣室・準備室
3.4 原材料のリスク管理
3.4.1 原材料管理
3.4.2 水質管理
3.5 排水の管理
3.6 廃棄物の管理
3.7 化学薬品の管理
3.8 従業員管理とリスク対策
3.8.1 5S が「一般衛生管理」の基本
3.8.2 衛生・不要品の持ち込み管理
3.8.3 トイレ
3.8.4 更衣室
3.8.5 準備室
3.8.6 健康管理
第4 章 生産工程のリスクと管理
4.1 一般的な生産工程のリスクと管理
4.1.1 生産環境管理のリスク対策
4.1.2 工程検査・抜き取り検査
4.1.3 機器の校正
4.1.4 量目管理のリスク対策
4.2 生産工程の特定リスク対策(異物,微生物,アレルゲン)と管理
4.2.1 異物混入防止
4.2.2 異物混入防止に用いる品質保証機器
4.2.3 作業着・人的異物管理
4.2.4 毛髪混入防止とリスク対策
4.2.5 防鼠防虫対策
4.2.6 昆虫のモニタリングとリスク対策
4.2.7 微生物制御
4.2.8 特定原材料(アレルギー物質)のリスク対策
4.3 出荷判定,回収についてのリスク管理と対策
4.3.1 出荷判定
4.3.2 不合格品の管理
4.3.3 控え見本の管理
4.3.4 トレーサビリティ
4.3.5 運搬
4.3.6 製品の回収
4.4 表示管理についてのリスク対策
4.4.1 食品に関する表示
4.4.2 意図的な表示違反と表示ミス
4.4.3 表示ミスを起こさないために
4.4.4 ラベル貼り付け作業時の注意点
4.4.5 消費・賞味期限の表示管理
4.5 一般衛生管理を担保する組織と文書
4.5.1 組織図の機能通りに人が動く体制とは
4.5.2 文書および記録の管理
4.5.3 一般衛生管理をしっかり守ることが機能組織に威力を発揮
〈特別寄稿〉食品の品質について
付録1 食品安全に関する法律体系
付録2 食品衛生法施行規則 別表第十七(第六十六条の二 第一項関係)
食品衛生法施行規則 別表第十九(第六十六条の七 関係)