食品製造現場ではHACCPに沿った衛生管理が義務化され、製造工程中の衛生管理が重要となってきました。従来の最終製品検査だけではなく、製造工程で微生物管理が問われ、簡易で迅速、リアルタイムな微生物検査が求められています。本書は、そうした時代背景を受け、新しい迅速検査法とその扱い方の原則を明らかにしています。同時に公定法といわれる国によって定められた微生物検査法との違いも、その目的と関係づけてつまびらかにしています。そうした意味で、微生物検査の考え方をきちんと整理したとも言えます。また、「簡易検査法」とは、「公定法」の「代用品」ではなく国際的にも認められ、「正規版」と同等であるとの認識を持つべきだとの主張は、微生物の数を瞬時に特定できる機器の登場と相まって、これからの微生物検査に対する認識を大きく変えていくものとして注目されます。そして、それを単に社内にとどめることなく、自社の衛生管理水準を見せていくことで、自社製品の安全性をアピールするツールとして、自主検査の役割が重要になってきていることを事例を持って紹介しています。まさに「見える化」から「見せる化」の時代になってきました。
【目 次】
第1章 HACCP―その歴史と今日的意義
1.1 HACCP の歴史
1.2 HACCP の本質
1.3 安全と安心
1.3.1 リスクとハザード
1.3.2 安全の定義
1.3.3 安全と安心の関係
1.3.4 「安心」は戦略的付加価値
1.3.5 今日的な品質管理
1.4 HACCP の評価
1.5 HACCP と品質および不快なしかし不可避な欠陥との関係
1.5.1 品 質
1.5.2 FDA:「不快な,しかし不可避な許容できる欠陥」という 「品質懸念」
1.5.3 安全限界点
第2章 HACCP と微生物検査
2.1 「試験」と「検査」の用語について
2.2 最終製品検査について
2.2.1 抜き取り検査の統計学的考え方
2.2.2 全数検査ができないことへの理解
2.2.3 最終製品の抜き取り検査は無用か?
2.3 HACCP 7 原則 12 手順と検査との関わり
2.3.1 HACCP は完璧なシステムではない
2.3.2 【手順2:製品についての記述】では微生物検査が不可欠
2.3.3 【原則1手順 6:危害要因分析】では自施設の微生物危害要因の検査が必要
2.3.4 【原則5手順 10】改善措置の妥当性を見る微生物検査
2.3.5 【原則6手順 11:HACCP の検証】としての微生物検査
2.4 HACCP 的な検査とは ―科学に基づく・検証できる・文書 / 記録がある―
2.5 検査における 2 つの検証 ―バリデーションとベリフィケーション
2.6 バリデーション(validation)―検証方法の妥当性の確認―
2.6.1 誰が,どのような方法で正しく検査できるか,という証明
2.6.2 社内限定によるバリデーション条件の変更と必要な根拠
2.7 ベリフィケーション(verification) ―要求水準が実際に満たされたことを客観的に示すこと―
2.8 第三者機関による精度管理(技能試験:Proficiency Testing)
2.8.1 検査の信頼性をどう検証するか ―内部精度管理と第三者機関での精度管理
2.8.2 技能試験の実際例
第3章 食品微生物の自主検査 ―製品最終検査結果証明から工程管理のための検査へ―
3.1 自主検査と言われるものの範囲
3.1.1 食品衛生分野での自主検査は事業者の責務
3.1.2 「公定法」とは法律に基づき保健所が行う「収去検査」の方法を 指す ―食品の「規格基準」と「公定法」は「財産権」と関係
している―
3.1.3 自主検査―自前検査と外部機関への委託検査
3.2 中小の食品等事業者に適合した微生物検査法
3.2.1 代替法(プロプライエタリ法) ―代用品ではなく正規版と同等ということ
3.2.2 衛生指標菌を中心とした「公定法」の立ち位置
第4章 微生物検査に関わるコンプライアンスと経費
4.1 誠実性―微生物検査のルールに則った運用・評価―
4.2 合目的性―目的に合った検査法を適切に選ぶこと―
4.2.1 リステリア・モノサイトゲネスに対する環境モニタリングに 見る合目的性
4.2.2 実際的でない試料の採取法と均質化法から合目的性を探る
4.2.3 公定法 vs 食品衛生検査指針(global standard),どちらの 細菌数(生菌数)を採用?
4.3 自主検査:公定法 vs 代替法での費用対効果は?
4.3.1 公定法 vs(例えば)食品衛生検査機器 BACcT と自主検査の 教育的意義
4.3.2 検査経費をどう考えるかで,見える景色が変わる
4.4 これから自主検査を始めようとする食品企業への提言
第5章 自主検査で取り扱う食品微生物
5.1 変化する食中毒の様相と発生時期の常識 ―原因菌の入れ替わりと通年発生へ―
5.2 自主検査の原則 ―食中毒菌を扱わない:腸管出血性大腸菌を例に―
5.3 汚染指標菌と規格基準
5.4 汚染指標菌の種類と性質
5.4.1 代表的な汚染指標菌と管理対象となるその他の菌
5.4.2 生菌数とは
5.4.3 一般生菌検査法の盲点となる低温細菌
5.4.4 糞便汚染指標菌(腸内細菌科菌群・大腸菌群・糞便性大腸菌 群・大腸菌)のプロローグ
5.4.5 糞便汚染指標菌(腸内細菌科菌群・大腸菌群・糞便性大腸菌 群・大腸菌)の来歴と特徴
5.4.6 黄色ブドウ球菌
5.4.7 真菌(酵母・カビ)
第6章 自主検査導入に際しての注意点
6.1 自主検査導入へのアプローチ
6.2 検査施設について
6.3 検査担当者―誰が検査をする?―
6.4 検査手順―サンプリングと計数判定・結果の取り扱い―
6.4.1 サンプル(試料)とは―生きている微生物,履歴を確実に
6.4.2 サンプリングまたはサンプリングプラン
6.4.3 製品の特徴に対応したサンプリング
6.4.4 生菌数の求め方と考え方
6.4.5 検査方法の標準化と記録
6.4.6 培養した菌の廃棄の注意点
6.5 黄色ブドウ球菌を用いた検査計画実施のイメージ
6.6 サプライヤーマネジメント ―サプライヤーに依存する安全性と品質―
6.6.1 原材料などのサプライヤー(外部の供給業者)に検査成績書 を要求する際の留意事項 ―求めるのは検査(試験)成績表ではなく規格書―
6.6.2 JFS/B 規格に見る購買管理マネジメントによる安全性確保
6.7 自主検査は高品質商品づくりへの投資である
第7章 食品の期限表示と自主検査
7.1 食品の期限表示に見る安全性保証の責任の所在
7.2 PL(Product Liability:製造物責任)法 ―消費者の立証負担の軽減―
7.3 改めて「消費期限」と「賞味期限」
7.4 期限設定と自主検査 ―保存試験のデザインと微生物の知識がものをいう―
7.5 食品の期限設定を目的とした保存試験
7.5.1 期限の長さで見た食品と適応する試験
7.5.2 保存試験のデザインと手順
7.5.3 期限設定のための微生物検査はいかにあるべきか
7.6 期限設定でのいくつかの問題点
第8章 検査の自動化・機械化と培養によらない検査
8.1 検査の迅速性―結果の同一性と同等性―
8.2 多種多様な検査システム
8.2.1 培養手順やコロニー計数技術の自動化・高精度化
8.2.2 細菌を分離する技術の改良
8.2.3 培養して肉眼で確認する方法とは原理的に異なった方法で細 菌を検出する技術 ―サイトメトリー原理(短時間に細胞を定量的
に測定する分析手法)を拡張した微粒子分離技術―
8.3 微生物を直接対象としない衛生検査
8.3.1 食品製造環境の清浄度と OPRP
8.3.2 清浄度検査とそのデバイス
8.3.3 残留タンパク質拭き取り検査と衛生監視と指導
第9章 経営戦略としての自主検査の取組み
9.1 自主検査導入の目的と成果の事例
9.1.1 株式会社かねふく本社工場にみる菌数目標管理
9.1.2 有限会社一蘭のレビューとクレンリネスライセンス
9.1.3 株式会社ヤマナシヤの衛生管理情報の全公開HACCPの見せる化」戦略
9.1.4 しげ食品株式会社―コンサルタントとの出会い―
9.2 自主検査導入後の変化
9.2.1 検査して初めてわかること ―自主検査を導入した 28 社からの回答―