一般社団法人日本生産者 GAP 協会では、人類の永遠の課題である「人間活動と自然環境との調和」を目指す農林水産業を再構築するために、農業における基本的な約束事をまとめた「適正農業規範( GAP 規範)」と、これに基づく「適正農業規準( GAP 規準)」を策定する活動を行っています。併せて、実際に農業現場で行われる「適正農業管理( GAP )」のあり方とその実践に係る学術的活動および GAP の普及・啓発活動を行うことを当協会の定款に記しています。
これらの目的を達成するために最も基本になる協会の事業が『日本 GAP 規範』を刊行することです。当協会では、 2010 年 10 月 15 日に『日本適正農業規範(未定稿)』を刊行し公開しました。未定稿の刊行に先立つ同年4月 22 日には、欧州を代表する『イングランド適正農業規範(水・土壌・大気の保護)』をイギリス環境・食料・地域農業省( DEFRA )の許可を得て日本語に翻訳し、「イングランド版適正農業規範」を出版し、 GAP の啓発活動を行いました。同時に、 GAP の在り 方とその実践について学び、『日本 GAP 規範』に反映させました。
本来の「 GAP 理念」を日本の農業に生かすために 、 当協会内に「適正農業規範委員会」を設置して「日本 GAP 規範」の原案作りを進めてきました。全国各地の行政、試験研究や普及指導および JA 営農指導など、現場で活躍する方々からも数多くのご意見をいただき、これらを元にさらに議論を重ねて GAP 規範を編集し、書籍として刊行してきました。
日本 GAP 規範 Ver.1.0 発行 2011 年 5 月 10 日
日本 GAP 規範 Ver.1.1 発行 2014 年 5 月 30 日
地球環境、国際的な社会情勢の変化や、それらに伴う人間の価値観の変化によって、 GAP規範として取り上げる内容もまた変化しています。今回出版した『日本 GAP 規範 第 2 版 』は、「世界の GAP ステージ3」(序章参照)で、日本農業と日本国民を守るための日本農業戦略の基盤として、生産現場の適正農業管理体制を築くことを念頭に置き、これまでの内容を大きく見直し、 Ver.2 として刊行致しました。
2015 年の国連サミットで持続可能な世界を目指す国際目標「 SDGs Sustainable
Development Goals 」が採択されました。政治や経済の世界でも関心が高まっていますが、残念ながら本質を外れた枝葉末節の議論が多いようにも思われます。そもそも「 GAP 規範」は持続可能な農業を目指すものであり、農業の生産過程で予期せず起こる自然破壊や環境汚染、食品危害等のマイナスの経済効果を起こさせないために行う適正農業管理の行動規範です。 GAP は、その中心に「人間活動と自然環境との調和を目指す」という目標 があり、持続可能性について科学の視点で体系的に把握しようとする極めて実践的な概念です。
本書は、時代の大きな転換期における「農業のみちしるべ」として刊行致しました。
本書を農業現場等で広くご活用いただき、さらに良いものにして行くために、ご意見、ご要望等を賜りますようお願い申し上げます。
一般社団法人日本生産者 GAP 協会 理事長 田上隆一
日本GAP 規範 第 2 版 目次
序 章
1 世界が目指す「持続可能な農業」と GAP 規範
2 世界の GAP ステージ
3 日本の農業倫理と「日本 GAP 規範」
4 GAP 普及の課題
5 『日本 GAP 規範』の活用
第1章 適正農業総論
1.1農場におけるリスク要因(危害要因)の認識とリスク検討
1.2 環境汚染につながるリスク
1.3 農産物の安全を脅かすリスク
1.4 農作業の安全を脅かすリスク
1.5 農場経営主の責務
1.6 管理計画と緊急対応マニュアル
1.7 地域版GAP規範と実践ガイド
第2章:農業と自然環境の保全
2.1 森林と農業の多面的機能
2.2 国土保全機能(自然災害防止機能)
2.3 水源の涵養機能の向上
2.4 生物多様性の保全機能の向上
2.5 良好な景観形成機能の向上
2.6 農山村における伝統文化の継承機能
2.7 野生生物との共生
2.8公共財としての多面的機能の維持と公的支援
第3章 土壌管理と作物養分管理
3.1 はじめに
3.2 土壌管理
3.3 窒素の形態変化と養分管理の基本
3.4 水田土壌の特徴と管理
3.5 畑土壌における肥沃度と分析・管理
3.6 土壌中のリン酸の管理
3.7 施設栽培の土壌管理
3.8 重金属などによる土壌汚染の防止
3.9 放射性物質汚染の対策
第4章 農場における水管理
4.1 はじめに
4.2 水田における水利用
4.3 畑地における灌水
4.4 家畜等による水質汚染の防止
4.5 天水貯留と水資源管理
第5章 圃場管理と作物保護
5.1 はじめに
5.2 作物栽培と圃場管理
5.3 有機質資材使用上の留意点
5.4 化学肥料と土壌改良資材の施用
5.5 作物保護と農薬の施用
5.6 外来生物等の利用と野生動物等への対応
第6章 特殊な栽培の管理
6.1 はじめに
6.2 施設(土耕)栽培
6.3 施設(養液)栽培
6.4 豊富な水による掛流し栽培
6.5 蓮田栽培
6.6 茶栽培
6.7 原木・菌床(キノコ)栽培
6.8 植物工場
第7章 家畜・家禽の飼養管理と環境対策
7.1 はじめに
7.2 家畜の飼養管理
7.3 家畜の放牧とその管理
7.4 衛生・安全管理
7.5 家畜排泄物の管理の適正化と環境対策
7.6 汚水処理と悪臭対策
7.7 害虫対策
第8章 農場内の施設・資材管理
8.1 はじめに
8.2 育苗施設における種子・種苗の生産と管理
8.3 肥料の保管と取扱い
8.4 農薬の保管と取扱い
8.5 燃料油の保管と取扱い
第9章 廃棄物の取扱い
9.1 はじめに
9.2 廃棄物の種類と処理方法
9.3 廃棄物の保管、回収、処理
9.4 廃棄物の有効利用
9.5 廃油と死亡家畜の処理
第10章 農産物・食品の安全性と食品衛生管理
10.1 はじめに
10.2 農産物・食品のリスク要因とリスク評価農産物・食品のリスク要因とリスク評価
10.3 農産物・食品の一般衛生管理農産物・食品の一般衛生管理
10.4 農産物集出荷・調製施設の農産物集出荷・調製施設の一般一般衛生管理衛生管理
10.5 大規模共同農産物取扱施設の衛生管理(農産物集出荷・選果施設)大規模共同農産物
第11章 労働者の保護
11.1 はじめに
11.2 農業における労働安全の基本
11.3 農場の危険な場所と危険な作業
11.4 農業機械の留意点
11.5 危険物等からの労働者保護
用語解説
規範委員会委員および拡大委員