燃えるような赤い色が特徴のロイヤルドルトンの「Flambe」シリーズ。
牛の血の色に似ていたため「Sang-de-boeuf/牛の血」と呼ばれる赤い釉薬を用いた作品です。
この赤い色は、中国・明の時代に遡る伝統的な赤い釉薬にインスピレーションを得て製作されました。
明王朝(1368-1644年)の皇帝の儀式で使用された器に用いられた赤い器。
この赤い器は、酸化銅を呈色剤として高火度で還元焔焼成し赤く発色させる技法で作られていました。
還元焔焼成とは、窯の中で酸素が充分に供給されず、不完全燃焼の炎による状態で焼成すること。
それにより銅分は紅色に発色するのですが、銅は気化しやすい特性があり、いつも美しい発色を得ることが難しいのが難点でした。
次第に、酸化銅を使用した顔料や釉薬はあまり用いられなくなりましたが、窯業技術が向上した清朝期になると再び酸化銅を呈色剤とする釉薬が用いられ、様々な赤色が生み出されるようになりました。
19世紀のヨーロッパでは、中国で生まれた美しい赤い釉薬の再現のために、各国の陶芸家たちが数々の研究と失敗を重ねていました。
長年の研究の末、ロイヤルドルトン窯でも数点の作品の製造に成功し、1904年セントルイス万国博覧会で「Flambe」作品を出品。
そこで高い評価と多数の賞を受賞し、花瓶やボウルだけでなく、動物などのフィギュアなども追加され、2005年にフランベ専用の窯のあった工場が閉鎖されるまで製造は続きました。
花瓶やボウルなどのシリーズには「Woodcut/木版画」と「Veined/脈状の模様」の2種類のデザインがあります。
前者は木版画で描かれたような風景画、後者は赤い釉薬に黒い釉薬が揺らぐように混ざり合う景色が表現されています。
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こちらはロイヤルドルトン Flambe/フランベのVeinedデザインのフラワーベースです。
「Veined」は、翅脈(しみゃく:昆虫の羽根などに見られる脈)や木目・石目などの縞などの意味があり、このベース全体に広がる赤と黒の色彩は、まさにそんな天然のゆるやかなカーブを表しているかのようです。
大きく広がった肩口からきれいなラインを描いて下に細くなる美しいフォルム。
短いながらもすっと伸びた首と口縁の薄さには洗練された美しさを感じます。
発色の良い赤を背景に、下から黒い釉薬が混ざり合いながら登っていく様は見ていて飽きません。
窯に入れて焼き上がるまで、釉薬がどんな揺らぎを見せてくれるのか予測不能なVeinedのベースは同じ型は多数あっても、1点ものといえるコレクタブルな作品です。
底部にロイヤルドルトンのバックスタンプがついています。
肩口あたりに小傷があります。最後から2番目の画像にてご確認ください。