METAL COIL
Final Cableのカテゴリーには現時点でシリーズ1とシリーズ2があります。シリーズ1は2019年度に作られた十数本のみで、その後、2021年の現在にかけて作られたものがシリーズ2になります。価格的には後期のシリーズ2の方が安いです。その理由はシリーズ1の場合、完全に「終われる」ケーブルを目指し手間暇は無視して作ったので年間を通し10数本しか作れませんでした。その中の多くはワトソン系で残りがアプスとグリッグスになります。代表作としてはVGAがあります。VGAが最も高額で50万を越えています。一方シリーズ2の方はシンプルな構成による作製期間の短縮によりかなり低価格帯にシフトできました。音質が良いという事ではどちらのシリーズも同じです。
METAL COIL
まずVintageな素材、アメリカ製で19世紀末から20世紀にかけての年代に作られたものです。非常にレアな素材ゆえにFinal Cableのカテゴリーに属します。このMETAL COILは素材の音が既に高度な完成度を持つゆえ複雑な構成を取る必要が全く無いので超シンプルな構成で完成しました。構成要素の75%にMETAL COILを使用しているという濃度の濃い選択です。線材そのものの完成度が非常に高いのでETCはノーマルに限りなく近いのにノーマル以上の完成度を持つETC1.2モードを採用しています。
METAL COIL
豊かで大きな表現! ジョン・レノンの声がZOOMINGしたように眼前に迫る。実際には誇張はなく感覚的にそうなるから不思議だ。声は懐かしくもあり現代的なレンジなのに眼前に出てくる。音楽全体としてはワイドアングルで隅々まで良く見えている。視界良好だ。絶妙なバランス感でフルレンジを滑らかに俯瞰できる。そして聴きたい所を自在にクローズアップできるかんじだ。うきうきと楽しくなってくるような昂揚感が音自体にあり音楽を聴く時間を退屈にさせない。
この曲のドラムはワイドレンジで良い意味でのWILDさがエンジニアの狙いだ。アルバム全体を通してスモーキーでアンバーでラフな良さをワイドレンジに描く。METAL COILによりそのエンジニアの狙いは100%眼前に展開し聴くものを快楽音の世界に封じ込める。ドラムサウンドは特に特筆すべきパワフルさで、それでいて繊細さもふんだんに込められている。空間での各楽器の位置分解能はとても優れていてそれぞれを単独で聞けるようなセパレーションの良さを感じる。色数は豊富でアンバー寄りの階調豊かな音をコントラスト豊かに描いている。その傾向はアーシーなスライドギターの音にも濃厚にありソロの音が抜群だ。点数を敢えて付けるなら95点以上だ。
この12弦ギターの音がいい。左右から奏でられる12弦ギターと中央少し前で歌うジュリアの声、この位置関係がとても素直に描写され全く不自然な所がない。解像度はすっきりと各部を見通せるもので音像描写の輪郭線はエッジが太く滲まず繊細な細さを保っている。全体のバランスも上々で音色、定位、解像度のバランスが極めて高い地点で取れている。心地よい仕上がりだ。
リスナー側から見て扇形に広がる音像描写が精緻な描き方をしている。それぞれに前後感とビンポイントな左右間での位置がわかり聴くことのストレスを感じさせない。厚みのある音像空間だ。気配感や雰囲気といった高周波域での表現に長けるので各音像間に漂う微細な階調的雰囲気が良く伝わる。具体的に言えば音場空間に瑞々しさを感じる。このプラスα的なものが具体的な楽器や歌の音像に更に加わる事でより表現に奥行きと深い味わいが足し増しされる事になる。極上の音質とはこれでしょう!
ライドシンバルのカップ音とスネアドラムのサイド・スティック音の生々しさ・・! 加えてベースの弾み具合も良くピアノは良く歌う。音の粒立ちに優れその余韻が背景に溶け込む様子が美しくもある。その過程で音は滲まずにそのまま実在感を伴ったままな所がまたいい。ベースノートのキレが良く音の立ち下る様子が極めて優秀な所がこのケーブルの持ち味の一つだ。ダラダラとしないでスッと消える、特にパーカッシヴな音で、ピリッとキラッと立ち下がる。だから瞬発力のある音にスピード感を感じるのだ。
この曲は極端に左右に分けた録り方をしている。エレピは左隅にぴったりと付き、ベースは右隅に張り付いている。そして主役の弓弾きのコントラバスはど真ん中でゴリゴリ弾く。そんな中、ドラムのジョージ大塚は真ん中に割り込んでオカズをぶちかます。リミッターとかはかかっていないようなのでドラムの唐突さは群を抜く。この曲はそんなダイレクト録音のリアルさを堪能すべき曲なのだがMETAL COILはその凄まじいダイレクト録音の素晴らしさを生々しく再現する。素の味の美味を味わえた。